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福岡高等裁判所 昭和43年(ネ)403号 判決 1968年11月19日

主文

原判決を次のごとく変更する。

控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)山下ヤエ子に対し金一八八万三、〇二九円、同山下睦子、同山下祐子、同山下貴司に対し各金九二万〇、六二五円および被控訴人(附帯控訴人)山下ヤエ子に対する内金一、四二万八、九四七円その余の被控訴人(附帯控訴人)らに対する右各金員に対する昭和四一年六月九日から、被控訴人(附帯控訴人)山下ヤエ子に対する内金四五万四、〇八二円に対する昭和四三年五月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人(附帯控訴人)らのその余の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審を通じ二分し、その一を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。

第二項に限り仮りに執行することができる。ただし、控訴人(附帯被控訴人)において、被控訴人(附帯控訴人)山下ヤエ子に対し金五〇万円、その余の被控訴人(附帯控訴人)に対し各金二五万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という。)代理人は、「原判決中控訴人勝訴部分を除いて原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決ならびに敗訴の場合における仮執行免脱の宣言を、附帯控訴について「附帯控訴を棄却する。附帯控訴費用は、附帯控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら(附帯控訴人ら、以下単に被控訴人らという。)代理人は、「原判決中被控訴人らの敗訴部分を取消す。控訴人は被控訴人山下ヤエ子に対し金四、三〇万四、一七八円、同山下睦子、同山下祐子、同山下貴司に対し各金二、五四万八、七七五円および右各金員に対する昭和四一年六月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上法律上の主張および証拠関係は、控訴代理人において「一、控訴人の答弁事実中、原判決七枚目表一行目「バイクと衝突したこと」とあるのを「バイクが訴外堀勝則の運転する車の後部ナンバープレートに接触したこと」と訂正し、同八枚目表二行目「亡山下進において」の次に「訴外堀勝則の車の進行を妨げてはならず、かつ同法第四二条により」と付加する。二、堀勝則は、本件事故発生の交差点から中央に〇・六米直進した地点において左側九・二米の地点を時速四五粁の速度で右交差点に向つて進行してくる山下進の車を発見したのである。この交差点は、交通整理の行われない箇所であるから、堀勝則の車が既に交差点に入つているので、道路交通法第三五条第一項により山下進としては堀勝則の車の進行を妨げてはならない義務があり、かつ同法第四二条により交差点を通過するに際しては徐行しなければならない義務も負つていたのである。しかるに、山下進は、右義務をいずれも怠り、堀勝則の車の後部を無事に通過できると軽信して漫然と進行したために本件事故を惹起させたのである。他方堀勝則の車には同法第三五条第一項にいう先入車優先が認められるから、堀勝則は、山下進の車の進行を妨げてはならない義務を負ういわれはなかつたし、かつ同法第四二条に従い徐行をしていたのであつて、何らの義務違反はなかつた。堀勝則が山下進も法に従い徐行するであろう、先入車である自己の車の進行を妨げないであろうと信頼することは無理からぬところというべく、いわゆる信頼の原則に照らし堀勝則には本件事故の責任がない」と述べ、〔証拠略〕を提出し、被控訴人ら代理人において〔証拠略〕の成立は不知と述べたほか、原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

理由

一、当裁判所は、被控訴人らの本訴請求は後記認定の損害の限度において正当として認容すべきものと判断するが、その理由は、次のごとく付加、訂正するほか、原判決説示の理由と同一であるからこれを引用する。

二、原判決一〇枚目二行目の末尾に次のとおり付加する。前掲各証拠によると、堀勝則の車が山下進の車より本件交差点に先入したものと考えられるので、堀勝則の車に道路交通法第三五条第一項所定の優先権があつた場合についての判断を補足する。右にいう優先権の内容は、相手方を絶対的に制止させて自己の優先的な通行を主張できるというものではなく、単に相手方に対し自己の進行を妨害するような行動をしないことを期待できるものにすぎないのであつて、相手方にも優先権者の進行を妨げない範囲では通行の自由があるものである。従つて、交通整理が行われていない交差点を通過するにあたつては、瞬間的に優先権の帰属を認識することが困難であることも少くないであろうし、相手方が優先権者の行動について誤認錯誤することも無理からぬ場合も予想されるところであるから、優先権者も優先権のみに頼ることなく、相手方の通行の態度、自己に対する注意の程度等に配慮して事故を未然に防止する義務があるといわなければならない。よつて、堀勝則の車に前記優先権があつたのであるが、堀勝則に右のごとき運転者としての注意義務は免れないのであつて、本件の場合前説示の注意義務が認定できるから、いわゆる信頼の原則を適用する場合に該当せず、同人は本件事故につき責任を負わなければならない。又後記のとおり山下進には本件交差点通過にあたり道路交通法第四二条に定める徐行義務に違反したものであるが、右は事実があつたからといつて、堀勝則が運転者としての前記注意義務を免れうることもできない。

三、原判決一一枚目裏一一行目末行の「第三〇号証」を削り「第二四号証、第二六ないし第三〇号証、成立に争いない甲第二五号証」を付加する。

四、原判決一二枚目裏三行目の「三八、五六年」を「三四、六二年」と訂正する。

五、原判決一三枚目裏一二行目の「四対六」を「五対五」、同一四枚目表一行目の「一〇分の四」を「一〇分の五」と各訂正し、同枚目表二行目の「金三、一七一、三八三円」を「金二、六四万二、八一九円(円以下切捨)」と、同三行目の「金五七、六〇九円」を「金四万八、〇〇八円」と、同六行目の「金一、〇五七、一二七円」を「金八八万〇、九三七円」と、同七行目の「金七〇四、七五二円」を「金五八万七、二九二円」と、同枚目裏五行目の「金九〇〇、〇〇〇円」を「金六〇万〇、〇〇〇円」と、同九行目の「金六〇〇、〇〇〇円」を「金五〇万〇、〇〇〇円」と、同一〇行目の「金四〇〇、〇〇〇円」を「金三三万三、三三三円」と、同一三行目の「金五、〇二八、九九二円」を「金四、一九万〇、八二七円」と、同一五枚目裏七行目の「金五三五、〇〇〇円」を「金四五万四、〇八二円」と各訂正する。

六、原判決一五枚目裏九行目「おらず」の次に「右弁護士費用は、本件事故から直接に発生してというより、控訴人の損害賠償義務不履行ないし不当な抗争が請求権発生の主たる原因をなしており他の損害とは別異な性質を有し」を挿入する。

七、以上の各損害金を各被控訴人について合計すると、被控訴人山下ヤエ子は金一、八八万三、〇二九円、その他の被控訴人ら三名は各金九二万〇、六二五円の損害賠償請求権を有することになり控訴人は被控訴人らに対し、右各金員および被控訴人山下ヤエ子に対する内金一、四二万八、九四七円、その余の被控訴人らに対する前記各金員に対する本件事故発生の日である昭和四一年六月九日から被控訴人山下ヤエ子に対する内金四五万四、〇八二円に対する昭和四三年五月二〇日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

八、よつて、右と一部異る原判決を一部変更することとし、民事訴訟法第九六条第九二条、第九三条、第一九六条第一項第三項に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 江崎弥 弥富春吉 倉増三雄)

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